『新幹線大爆破』(新作)の概要
1975年に公開されたオリジナル版『新幹線大爆破』は、高倉健さん主演のサスペンス・アクション映画で、新幹線に爆弾が仕掛けられ、「時速80km以下に減速すると爆発する」という緊迫した設定が話題を呼びました。
この作品は、後にアメリカ映画『スピード』のモチーフにもなりました。
犯人に高倉健、新幹線指令所の司令長に宇津井健、新幹線の運転士に千葉真一という錚々たる顔ぶれ、当時の特撮技術の粋を集めた迫力ある映像、当時の時代背景(犯人一味の一人が売血)が垣間見える、など素晴らしい作品で、私も大好きな映画の一つです。
今作では、樋口真嗣監督がメガホンを取り、主演に草彅剛さんを迎えています。物語は、JR東日本新幹線総合指令所に入った一本の電話から始まります。その内容は、東京行のはやぶさ60号に仕掛けられた爆破予告で、新幹線の速度が時速100kmを下回ると即座に爆発するというもの。犯人は爆弾を解除するために身代金として1,000億円を要求し、限られた時間の中、爆破を回避すべく奮闘する鉄道人たちのギリギリの攻防が描かれます。
今作では、オリジナルの設定を尊重しつつも、現代の技術や社会情勢を反映させた新しいアプローチが加えられています。
例えば、主人公を犯人側から、犯行を止めようとする新幹線の車掌に変更し、舞台を現代の新幹線、はやぶさ60号に設定しています。
今作の成功の要因と「買い切り」モデルの関係という視点
樋口監督は、オリジナル作品への深い愛情と現代社会への鋭い洞察を持ち合わせており、これが作品の質の高さに繋がっています。
また、JR東日本の特別協力により、実際の新幹線車両や施設を使用した撮影が行われ、リアルな映像と最新のVFXが融合した大迫力の映像が実現されています。これにより、観客は臨場感あふれる映像体験を楽しむことができます。
映画の質を高めれば必要となるのは資金
今作『新幹線大爆破』の成功は、Netflixの「買い切り」モデルによる安定した資金提供と、制作側の創造性の融合によるものだと考えられます。
Netflixの「買い切り」モデルは、制作側にとっては安定した資金提供を受けられる一方で、作品の権利を手放すというトレードオフがあります。
しかし、制作側が創造性を発揮し、質の高い作品を生み出すことで、世界中の観客に「感動」を与えることができるのです。
Netflix映画の「買い切り」とは
ここからは、Netflixの作品制作の舞台裏にある「買い切りモデル」について分かりやすく解説してみます。
以前公開された「全裸監督」や「地面師」などを観ながら、“このスケールの作品を日本で作るのは無理、Netflixとどのような関係があるのだろうか”と疑問に思っていたのです。
ここで言う「買い切り」とは、Netflixが映画やドラマの制作費を提供し、完成した作品の権利をすべて取得するという契約形態のことを指しています。
制作側(映画会社やクリエイター)は、Netflixから制作資金を受け取って作品を制作し、納品時に報酬を受け取ります。その後、作品に関する著作権やロイヤリティ、配信権などは基本的にNetflixが保有することになります。
Netflixは制作費を全額負担し、完成作品の全世界配信権や知的財産権を取得します。作品は「Netflixオリジナル」として公開され、他社での配信や販売は基本的にできません。
従来型の契約とは異なり、制作側には配信回数やヒットの度合いに応じたロイヤリティ収入は原則発生しません。一括報酬による“買い取り”が行われる形です。
ごく一部の成功作については、特別なボーナスや成功報酬が支払われる場合もあります。ただし、これはNetflixが独自に設定するケースで、一般的なロイヤリティ契約とは異なるようです。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
資金面 | 制作費を全額支給される | 権利を手放すため、収益チャンスが限定される |
制作の自由度 | Netflixの後押しで実現困難だった企画も通りやすい | Netflixの意向が強く反映される場合もある |
リスク管理 | 興行収入や配信成績に左右されず、安定した報酬を得られる | 大ヒットしてもその成功の恩恵を受けづらい |
従来の映画業界では、制作会社が出資を募り、映画館やテレビ局と収益をシェアする「分配モデル」が主流でした。
大ヒットすれば、長年にわたってロイヤリティや商品化収入が期待できます。
一方、Netflixの買い切りモデルは、安定した資金とグローバルな配信を約束する代わりに、長期的な収益権を放棄するという構造と考えられます。
Netflixは「加入者数」と「視聴時間の最大化」がKPI(最大業績評価指標)であり、作品単体の収益性を重視していません。
自社のプラットフォーム独占で魅力的な作品を増やし、加入者の継続率を高めることが目的です。
このため、作品を買い切ることで他社との差別化を図り、安定的なコンテンツ供給を維持しています。
まとめ
今作『新幹線大爆破』はとても楽しめた映画でした。主人公演じる草彅剛さんの熱演も光っていました。さらに、オリジナル版との比較や特撮技術の進化なども併せて、世界2位にランクされたというのも頷けました。
この成功の陰に、Netflixの「買い切り」モデルという、制作側に安定した資金提供を行い、作品の権利を取得する契約形態があったのは確かだと思います。
このモデルは、制作側にとっては将来的な収益の可能性を手放す選択となりますが、安定した資金提供により、創造性を発揮しやすい環境が整います。
今後も、Netflixの「買い切り」モデルによる質の高い作品が世界中で生まれることを期待したいと思います。
今作『新幹線大爆破』の成功は、このモデルの利点(制作側にとっては将来的な収益の可能性を手放す選択となりますが、安定した資金提供により、創造性を発揮しやすい環境が整う)を最大限に活かした好例だと思います。