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「月30時間残業上限」と「週30コマ授業」は両立しない──教員の働き方改革に必要なのは“標準授業時数”の抜本的見直し

教員給与特別措置法などの改正案を修正の見通し

2025年、教員給与特別措置法の改正により、教員の残業時間が月30時間以内に制限される見込みです。

これは一見すると歓迎すべき改革のように見えますが、実は「教員の働き方改革」の本質からは大きく外れていると考えます。

なぜなら、文部科学省は「標準授業時数」の見直しに踏み込んでいるようには見えないからです。

一般の方には馴染みのない「標準時数」、そこにある問題を論じてみたいと思います。

本稿の前提となる標準時数について

文部科学省が定める「標準授業時数」は、学年ごと・教科ごとに年間の授業時数として定められており、そこから週あたりの授業時間数(コマ数)が逆算されます。

小学校(例:学年別の週当たり標準時数の目安)

学年年間標準時数の目安(合計)週あたりのコマ数(45分授業)
1年生約850時間(=34週×25時間)週25コマ(1日5時間)
2年生約910時間(=35週×26時間)週26コマ(1日5~6時間)
3年生約980時間(=35週×28時間)週28コマ(1日5~6時間)
4年生約1,015時間(=35週×29時間)週29コマ(1日6時間前後)
5年生約1,050時間(=35週×30時間)週30コマ(1日6時間)
6年生約1,050時間(=35週×30時間)週30コマ(1日6時間)

※出典:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 各教科編』

補足事項

  • 1コマ=45分として設定されています。
  • 上記は「標準」時数であり、最低限の履修時間と解釈されているため、実際はこれ以上の授業が行われることも多く、補充・発展・習熟度別指導によりさらに時間が増える傾向にあります。
  • 文科省は「週30時間授業」程度であれば無理なく履修可能としていますが、教員の勤務時間や残業制限との整合性は十分に考慮されていません

つまり、高学年(5・6年生)は週30時間授業が「標準」であるという立場を文部科学省は取っています。

しかし、年間35週授業を行っても、行事・警報・インフルエンザ・家庭訪問等で実質30~32週しか授業できない学校も多く、実態としては“週30コマ必須”の運用が常態化しています。

この設定こそが、教員の勤務実態とかけ離れているという大きな問題になっています。

教職員の働き方改革と児童の健全な育成の両立を図るには

小学校高学年では、週30コマ、つまり毎日6時間の授業をこなさなければなりません。

職員室に戻って時計を見ると、すでに退庁時刻が迫っているという現実。

授業準備・評価・会議・保護者対応・生徒指導などを定時内に終えるのは不可能であり、残業時間削減の実現は正に“絵に描いた餅”です。

  • 現在、文部科学省は小学校高学年に週30コマ(1日6時間授業)を標準とする授業時数を設定しており、教職員の業務負担は極めて重い。
  • 教員の残業時間を月30時間以内に抑えるためには、授業準備・評価・保護者対応などに十分な時間を確保する必要があるが、現状では物理的に不可能。
  • 総合的な学習の時間(週3コマ)、道徳、外国語など、評価や準備に大きな負担を要する教科について、見直しを行う必要がある。

すでに一部の自治体では、週27コマでの運用が試みられています。(週当たり3コマ減ということは年間35週として年間115コマの削減)

しかし、文科省が定める「標準授業時数」はそのままであるため、各学校ではこれまで削減をしてきた学校行事などをさらに削減・縮小の方向で考えなければならない場合も。

現場の教員の残業時間を本気で減らすなら、以下のような対策が避けられません。

  • 総合的な学習の時間(週3コマ)の廃止または縮小
  • 道徳や外国語における教員の評価負担の撤廃
  • 教科内容の精選
  • 標準時数の法的緩和(週30コマ→25〜27コマ程度)

こうした見直しがなされてこそ、はじめて「残業月30時間」の現実的運用が可能になります。

文科省は、現場に負担だけを押しつけるのではなく、教育の中身そのものを見直す時期に来ています。

教育界は「スクラップ アンド ビルド」にあらず、「ビルド アンド ビルド」

標準時数を削減できない理由

学習指導要領で規定された標準授業時数の「削減案」がなかなか出てこないのは、主に以下のような制度的・運用的な要因が絡み合っていると考えられます。

  1. 法的・制度的なハードルが高い
    標準授業時数は「学校教育法施行規則」別表第1(第24条の2関係)で法的に定められた最低限の授業時間であり、これを削減するには省令や法改正が必要です。現行の指導要領改訂では「柔軟化」や「弾力化」の検討に留まり、法定基準そのものへの手はなかなか及んでいません。 ※文部科学省
  2. 学力維持・学力競争への懸念
    全国学力・学習状況調査の結果が地域間の「学力競争」プレッシャーを強めており、教育現場はむしろ標準以上の授業時間を確保しようとします。このような環境では「授業時間を減らす=学力低下に直結するのでは」という警戒感が根強く、削減提案が後ろ向きに捉えられがちです。 ※教育新聞|教育を変えるファクトがある
  3. 新教育内容の拡充で時間数が膨張傾向
    2008年・2017年改訂では、思考力・判断力・表現力といった資質・能力を重視した結果、教科書のページ数が増大し、授業内容が膨らみました。文科省の2003年通知でも「必要に応じて標準を上回る指導時間を確保する」ことが明記されており、この流れが常態化したままです。結果として、内容削減よりも「どう柔軟に割り振るか」の議論に終始しています。 教育新聞|教育を変えるファクトがある
  4. 中央教育審議会(中教審)の論点設定
    中教審の教育課程部会では、「標準授業時数の弾力化」や「裁量的時間の活用」といったテーマは上がるものの、法定標準そのものを引き下げる提案は聞こえてきません。現場感覚に乏しい委員構成や、有識者レベルの理論的議論が深まらないことが一因と考えられます。
  5. 文科省の政策優先順位
    文部科学省の現行の働き方改革メニューでは、校務DXやサポートスタッフの配置、ICT活用など「教員の負担軽減」に向けた支援策が中心です。標準時数の法的見直しは予算・制度面での大規模改変を伴うため、この枠組みの中では優先度が低く、具体的な削減案まで踏み込めていないのが実情です。 ※文部科学省

以上のように、「標準時数削減」は学習指導要領改訂のたたき台にもなりにくく、現場レベルでは「柔軟化」でしのぐしかないのが現状です。

まとめ

もはや待ったなし──教職員の健康を守り、児童生徒の学びの質を確保するためには、今すぐにでも教育課程の構造改革に踏み出すべきです。

現場に「できるわけがないこと」を平然と求め、帳尻だけを合わせさせるような制度運用では、教員の大量離職・人材不足・教育の崩壊という、取り返しのつかない未来が現実のものとなるでしょう。

教員の善意と献身に頼り続ける“昭和型の教育体制”は、もう限界を超えています。必要なのは、机上の理屈ではなく、現場の声に根ざした実効性ある対策です。

本気で教育を守る気があるのなら、標準授業時数を含む教育課程の見直しこそが、最優先の課題であるべきと考えます。

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